1972年、偉大なバンド「シカゴ」のギタリスト・テリー・キャス(Terry Kath)とその仲間によってピグノーズ・アンプは作り始められました。続く1973年のサマーNAMMにおいて、この新製品は「レジェンダリィ(伝説の)・ピグノーズ」のキャッチフレーズとともにお披露目されています。
新製品であるのに「伝説」と言ってしまうユーモア。これは、シカゴ(シカゴ・トランジット・オーソリティー)というグループ、すなわち'60年代における反体制的な音楽/ロックミュージックのグループというバックグラウンドを考えると分かりやすいでしょう。
さて、当時はコンサートPAの技術がまだ未熟な時代で、会場を鳴らしきるような大きくてパワフルなアンプがトレンドでした。でもピグノーズはそんな「大きいことはいい事だ」という発想とは全く逆だったのです。その名前の由来は今も謎のままですが、イージー・ライダー・スタイル、すなわち気ままな現代の叙情詩人、といったコンセプトがあったことだけは間違いありません。
当時、そのコンパクトさを生かして雑誌に「実物大」で紹介するなど、ピグノーズはマーケティングにおいても独創的でした。また、初期は本物の豚の皮で覆われていたトランクのような外観は、駅馬車の時代や辺境の荒野をイメージさせてくれます。
こうしてまたたく間に成功を収めたピグノーズのエンドーサー・リストにはフランク・ザッパ、イーグルス、レッド・ツェッペリンやチーチ&チョンといった様々なアーティストが名を連ねることになったのです。
ピグノーズ・インダストリーズ社は1974年、「シカゴ」の会計係に売却され、彼による運営はその後1982年まで続きました。
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ピグノーズの思い出を持つギタリストは数多くいることでしょう。筆者自身はまず、まだピグノーズが今ほど広まっていなかった70年代のことを思い出します。
マーシャルアンプが壁をなすレコーディングスタジオ。そのとなりの部屋にはピグノーズ・アンプがちょこんと置かれていて、ノイマンやゼンハイザーといった高価なマイクで収録が行われていたのです。また、ピグノーズは大型アンプの歪み用のプリアンプとしても使われていましたし、ハーモニカ奏者にはそのダーティなブルース・サウンドでとても愛用されていました。
学生の頃、バンド仲間から80年代後半のピグノーズアンプを借りて使ってみたことがありました。寮の部屋や学校の中庭でのジャムや、ブルースをプレイするのに最適でした。様々なギターやベースを使いましたが、サウンドはそれぞれ異なるものでした。
なかでも最初に使ったのは、古いスプロ・ベルモント・ギターで、このピックアップはもともとパワーがなくて安っぽい音のするものでした。このギターはフェンダーチャンプをオーバードライブさせることすらできませんでしたが、ピグノーズはレスポールのサウンドのように鳴らすことができたのです。ボリュームを操作すれば、グレッチのような鳴りを作り出すこともできました。
次に使ったのはテレキャスター。ボリュームが半分でもディストーションがかかり、ほどよいグリッド感は上々ですが、キャビネットの特性からか、ややトレブルが荒れるような印象がありました。
シングルコイル・ピックアップのギターをフルボリュームにして家で練習する時などは、キャビネットを閉じたままスピーカーを下にしてカウチに置くと、ルームメートや隣人に迷惑をかけることなく素晴らしいブルーストーンを奏でることができました。
私の59年・レスポールJr.につなげた時などは地獄から解き放たれたように自由な気分になったものです。そう、レスポールJr.のP-90ピックアップによってピグノーズから発せられるサウンドは、私を発作的にパワーコード・プレイへと突き動かし、気が付いたらアンガス・ヤングが「You Shook Me All Night Long」を弾く時のように部屋の中でぐるぐるとまわりながら踊っていたのです!ロー・エンドのサウンドはやや古臭い感じでしたが、私にはとても楽しめるものでした。
一方、ベースで鳴らしてみたこともありますが、こちらはあまり満足のいくものではありませんでした。
ピグノーズは家での練習には十分なものですが、広い場所で、ベースや、メロウなサウンドが求められるジャズギターなどには、よりクリーンなアンプの方が向いています。
そう、リトル・ピグノーズはロックするためにあるものなのです!
ピグノーズは多くのメーカーに影響を与え、たくさんのフォロワーを生み出してきました。ただこれだけは憶えておいて欲しいのです。ピグノーズアンプはカーステレオが8トラで、電卓などもなく計算尺を使っていて、ウォークマン登場するよりもはるか以前に登場したものなのです。にもかかわらず、このユニークな名前の携帯アンプはまさに「built to last:継続すべく作られている」わけで、これからもピグノーズは人々に愛用されていくことは間違いありません。